
「勉強しなさい」と何度言っても、動かない。
一緒にやろうとすると、いつもバトルになる。
教室の面談で、親御さんからいちばんよく聞く話です。
個別指導の教室で、年間1,000時間以上、勉強を自分からは進めようとしない生徒さんたちと向き合ってきました。発達や学習に特性のある子も、そうでない子もいます。
その中で分かってきたのは、動かない子の多くは、やる気が「ゼロ」なのではない、ということです。
ゼロが底だと思っていたら、そこを突き抜けて、マイナスに沈んでいる。
だから「少しでもやろう」が、ほとんど通じません。
この記事では、やる気がマイナスになっていく7つの場面と、そのとき親や講師にできること、本人にできることをまとめました。2024年に書いた連載「やる気マイナスからの勉強方法」の入口にあたる記事です。くわしい話は、それぞれの回につないであります。
先に、目指すところ
目指すのは、親や先生にやらされてでも勉強すること、ではありません。
いまはイヤでも、今と将来に役立つだろうと少しでも希望をもって、本人が頭と手を動かしはじめること。そこです。
もう1つ。ここに書く全部を試す必要はありません。
1つでもできそうなもの、「少し変えたらできそう」なものからで十分です。全部できていないからといって、がっかりしないでください。
場面1 勉強ができないことで、怒られてきた
テストの点がよくない。当てられても答えられない。宿題を忘れる。提出物が間に合わない。
そのたびに怒られてきた子は、勉強と「怒られること」が結びついています。
面談の8割くらいで耳にするのが、 「勉強を見ていて、できないと叱ってしまいます」 「定期テスト前は一緒に勉強するんですが、いつもバトルになります」 という言葉です。
親・講師にできること
- 解けなくても、成績が悪くても、期限に間に合わなくても、怒らない。イライラを見せない
- 手が止まって混乱しているときは、「いったんやめよう」
- 意欲があるときは、「何日でも時間をかけていいよ」
- 意欲がなくなったら、「いったん置いておこう」
子どもの勉強で怒ってしまう親御さんは、ご自身がまじめに勉強してきた方であることが多いです。「ここまではできないと困る」という予測を立ててしまう分、”自分の中の基準”に届いていないわが子を見てつらくなるのです。
出発点は、「勉強ができないことは悪ではない」と、先に大人の方が考えを変えることです。
本人にできること:できないことを、ごまかさず認める。解けないものは一度ほったらかすか、だれかに助けを求める。
→ くわしくは #01 勉強ができないことで怒られてきた
場面2 「勉強しなさい」しか言われない
帰ってきたらすぐ、遊んでいるのを見かけるたびに、
「勉強しなさい」
「宿題やったの?」。
考えたいのは、この声かけに効き目があるかどうかです。
1日1度言って動いているうちは、効いています。
何日言っても動かなくなったら、そこで効き目は切れています。
「勉強しなさい」は逆効果、というより、もう届いていないのです。
別のやり方に変える合図です。
親・講師にできること
- 勉強したことが、いま自分の何に役立っているかを、具体的に話す
- 大人が、仕事や資格の勉強をしている姿を見せる
- 自分から動き出すところまで、計画や方法を手伝う
- いったん勉強を脇に置いて、その子が熱中できることをするのをゆるす。または、一緒にやる
言わないほうがいいこと
- (大人が自分を振り返って)「勉強しておけばよかった」 ⇒「じゃあ今すれば?」と意識的に/無意識的に反発するでしょう
- 友達やだれかと比べること。 ⇒対象がだれであろうと、追いこまれる側は、自分と他人は違うという思考になるので、 まったくその言葉は入っていきません
面談で、ある中学生の男の子に「将来どんな仕事をしたい?」と聞いたら、「プログラマーになりたい」と即答でした。理由は、お父さんがリモートワークで話しているのを聞いていて、なりたいと思ったから。「だから、今は勉強をがんばりたい」と。
大人が働き、学んでいる姿は、言葉よりずっと届きます。
「やってみせ、言って聞かせて、させてみせ、ほめてやらねば、人は動かじ」。山本五十六の言葉とされるものですが、順番は、まず「やってみせ」です。
→ くわしくは #02 勉強しなさい!しか言われない
場面3 できないことばかり、指摘される
テストのあとに「今回はどうだった?」と聞くと、どう答えると思いますか?
ほとんどの生徒さんが「ここができなかった」「ミスした」から話しはじめます。これを”正しい”普通の答え方と思いますか?
「まず、できたところを言ってみて」と促すと、口をつぐんでしまう子が多いです。特に日本人に多い反応かもしれません。
私自身、若いころに海外の人たちと活動していたとき、面接でまず「自分ができたこと、よいところ」を挙げるよう求められて、ぱっと出てこなかった経験があります。私も普通の日本人でした(笑)
できたところから話すのには、慣れが要ります。
親・講師にできること
- 「できたところはどこ?」から聞く
- そのあとで、できなかったところ、もう少しうまくできそうなところを尋ねる
- 「どうやったらできそう?」と尋ねる
- 本人が改善のしかたを言えたら、それを認めて、やってみるよう励ます。
やってみて、どうなったかを一緒に確認する
テストや宿題のたびにこれを続けると、早ければ数回、長くても数か月で、
「この教科は思ったよりできた。でもここはミスしていた」と、
自分から両方を話すようになっていきます。
→ くわしくは #03 できることに目を向けず、できないことばかり指摘
場面4 叱るときに、名前を呼ばれる
当たり前すぎて、気づきにくい場面です。
怒るとき、否定的なことを言うときに、子どもの名前を大きな声で、何度も呼んでいないでしょうか?
名前は、自分が何者かの根っこです。その名前が、よくない場面や気持ちとばかり結びつくと、
自分の名前そのものが、そして自分のことが嫌いになっていきます。
親・講師にできること
- 叱るときには、名前を呼ばない。連呼しない
- 逆に、少しでも前に進めたとき、手が動いたときに、名前を読んでから具体的に伝える
例:「〇〇、自分なりに工夫して解けたね」
本人にできること:叱られても、人格や力を否定されたわけではない、と知っておく。いやな気持ちは、だれかに話すか、自分だけのノートに書いて、外に出す。
→ くわしくは #04 名前を呼ばれる場面のネガティブイメージ
場面5 テストや成績表を、見せたくない
学年が上がるほど、子どもがテストを見せなくなる、成績表を見せない、というご家庭が増えます。これまででいちばん極端だった例では、親からも講師からも何度「見せて」と言われても最後まで見せず、どうやらどこかで捨ててしまったようでした。
大事なのは、見せたくない気持ちの手前にある、これまでの経験です。
親・講師にできること
- 結果がよくないことを、感情に任せて指摘しない。怒らない。だれも得をしません
- まず大人が、その結果をそのまま受け入れる
- 平均点や偏差値という「普通」ではなく、本人の前回と比べる。上がったところ、保っているところ、下がったところを一緒に整理する
大人がこの姿勢を持とうとしていると、子どもは敏感に察します。自分から見せてくれるようになり、よい結果のときは満面の笑みで持ってきます。そして、よかったところを言ってから「今回はここができなかった」と、正直に話してくれるようになります。
本人に知っておいてほしいこと:結果が悪くても、あなたの価値は下がりません。良くても、それだけで価値が上がるわけでもありません。
→ くわしくは #05 テスト結果や成績表を見せたくない/見せない
場面6 「とにかく勉強したくない!」
いちばん大きくて、根の深い場面かもしれません。
いちばん早く変わった例を書きます。
とにかく公園で友達と遊びたい、小学校高学年の男の子。親に言われて塾に来ましたが、はっきり「勉強したくない!」と言います。
「勉強したくないんだね」と受け止めて、「じゃあ、この時間で何をしたい?」と聞くと、「絵を描きたい」。それから数回の授業は、一緒に絵を描きつづけました。
しばらく続くだろうと思っていたら、2か月もたたないある回に、本人が「勉強する!」と言ってきました。そこからは、算数のプリントを1時間で何枚できるか、自分の中で競うようになりました。
親・講師にできること
- 「勉強したくないんだね」と、まず受け止める。なんと声をかけたらよいか分からなければ、このまま言ってみてください
- 「やらなければいいんじゃない」「一度、全部やめてみる?」と伝える
- なぜしたくないのか、その「勉強」とは何のことか、かわりに何をしたいのかを、一緒に整理する。このとき、大人の感情や先回りは入れない
- かわりにやりたいことが見つかったら、背中を押して、見守る
気をつけたいのは2つです。何もしていない状態は、できるだけ作らないこと。何もしない期間はあってもよいので、できるだけ、「自分で今は何もしないと決めた」としたいですね。その状況を経て、何かに一生懸命になれる時期が来たら、今が充実してさらに次につながります。そして、やらされている、という気持ちをなくすこと。自分で選んで決めた、と本人が納得できるようにします。
→ くわしくは #06 「とにかく勉強したくない!」
場面7 教科書どおりへの反発と、自分のやり方へのこだわり
小さいころから頭の回転が速く、周りから「天才」と言われてきた中学生がいました。
数学は、自分で考えついた解き方で進めます。センスを感じるところもありますが、遠回りなので時間がかかり、苦労のわりに点が伸びません。それが重なって、自分のやり方へのこだわりは強くなり、思考に柔軟性がなくなり、自信は下がっていく、という状態でした。
親・講師にできること
- 間違えても、ため息をつかない。「なんでできないの?」と問いたださない。すぐに答えを言わない
- 自分なりの解き方を持ってきたら、ちんぷんかんぷんでも、考えてきたことを具体的に認める。「そういう考え方もあるね」
- 正解に近づいている部分を見つけて、「ここの考え方は正しいね」と伝える
- 自分の方法と教科書の方法で、よーいどん。解き終わるまでの速さをくらべる
この生徒さんとは、1回の集中を15分より長くしないように区切り、速さくらべを多く使いながら進めました。少しずつ、「そっちのほうが速くてシンプル」と気づけるようになり、中3の後半には見事な集中力で、危ういと言われていた内部進学の権利をつかみ取りました。
→ くわしくは #07 “教科書通り”への反発と”独自”への固執と
7つの場面に、共通していること
並べてみると、どの場面でも同じことをしています。
- 先に動くのは、大人の方。 子どもを変えようとする前に、考え方と声のかけ方を変える
- 怒りの感情は、示さない。 怒って動くのは一度きりです
- まず受け止めて、それから本人に決めさせる。 「勉強したくないんだね」「じゃあ、どうしたい?」
- できるところから進めて広げる。 できなかったところは、そのあと
これまでの積み重ねが厚いほど、マイナスをゼロに戻すのには時間がかかります。
それでも、まずは1つ、小さいところから。
家族の中だけで抱えず、一度外に、愚痴でもよいので話してみるのも手です。
→ 私のこと、お受けしていること(プロフィール)
あわせて読む
- 連載のはじまり:やる気マイナスからの勉強方法 #0
- 英単語が覚えられなくて泣いてしまう中学生へ。塾講師が「覚えなさい」をやめて、単語帳を作った話
- 小学生・中学生の英検、塾なしでいける? 塾講師で父親の目から見た『家で伴走できる子・任せたほうがいい子』
タグ: LearningCenter, StudyCenter, やる気マイナス, 傾聴, 学習障がい, 発達障がい
コメントを残す
コメントを投稿するにはログインしてください。